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モロッコの歌舞と歌謡曲
presented by NN

シャアビ
民謡やその民謡をベースにしたモロッコの歌謡曲はというのは、実にアラブ諸国の中でも多様性に富んでいて、またアラブ系、ベルベル系とで大きく違い、それぞれが強烈に自らの文化の存在感を音でアピールしています。
アラブ系で代表的スタイルは「シャアビ」。
「シャアビ」とはアラビア語で「庶民・大衆」などの意味で、例えばアルジェリアやエジプトにも「シャアビ」と呼ばれるスタイルの音楽があります。
土地の人間にとっては最も庶民派の音楽で、結婚式などのお祭りごとにはもちろん、場を盛り上げるには欠かせない音楽。

シャアビでも花形楽器はやはり縦に構えて弾くカマンジャ(アルト・バイオリン)と打楽器ダルブッカ。最近はそれにシンセサイザーやドラムなどを加えてよりリズミカルにより盛大にしています。アラブ系音楽はどれもコール&レポンスが基本ですが、一発ですぐにわかるシャアビ独特のリズムがあります。
MUSTAPHA BOURGONEORCHESTRE ASRI、ラバト出身のJEDWANESAID SENHADJIなどは代表的。

 


ダッカ
マラケシュでイスラム暦の1月10日に行われるお祭り「アシュラ」で複数の男性によって演奏される集団音楽。
激しいカルカベやタリジャ(小太鼓)のリズムにこれでもか!と言わんばかりにハンドクラッピングを派手に打ち鳴らします。
リズムは打ち込みだったりと、躍動感炸裂。歌はお決まりのコール&レポンスのスタイルで延々と続き、ほぼノンストップ状態。「ワッハ!」「ヤッラ!」などの掛け声が特徴で、このノリがもうマラケシー。

(ダッカのアルバムはジュラバを着たねずみ男がジャケに写っているのですぐわかります)
だいたいアシュラ祭の何週間も前からメディナ内では夜遅くまでタリジャの演奏で賑わいます。
子供達は親からもらったタリジャ(小太鼓)でダッカの練習に励んだり、各地区代表のダッカグループが競うコンペティションもあるとか。ここ数年ものすごい人気のダッカグループ、Kach Kachはしょっちゅうマラケシュの商店から聞こえてきます。

 


3方向のアトラス山脈に遮られ、山間部や盆地に生存するベルベル民族は特異な文化と言語を維持し、文字文化を持たなかったうえに土地柄他の地域の部族との文化交流は難しく、その為方言の差は激しいです。
しかし、遊牧民達はキャラバンを組んでサハラ砂漠のオアシスを点々としたり、定期市の行われる村々に山間部を越えて物資を運んだりして交易を行っていました。その定期市ではお祭り、収穫祭や聖人の祭ムッセムは盛んに行われていました。こうした市や祭りを祝う為の音楽は、半農半商で生きるベルベル民族には欠かせないものです。
アラブ系とはまた異種のクセがあり、モロッコ音楽をえらく特徴づけているのは、打楽器を主体としたベルベル人の音楽だと考えられます。


アヒッドゥース
オート・アトラス東部とモワイアン・アトラス地方のタマジルト方言を話すタマゼクト族の音楽と舞踊スタイル。
アッヒドゥースはイミルシルのアイトハディドゥ族の婚約ムッセムではお馴染みですが、男性と女性が交互になり向かい合った2列で行われ、立ったりかがんだりする独特なダンスが入ります。(地域によって多少フォームの違いあり)
アヒッドゥースは時には笛が加わることもありますが、基本的に楽器はベンディール(「アルン」と言う羊の皮を張ったタンバリンで金属片がついていない)のみしか使用しません。

10〜15種類のベンディールの振動音に変化をつけるために皮の張り方や指の使い方で音にニュアンスをつけて表現をします。
基本的に5つの楽章で構成されていて、まずは祈りの歌のソロから始まり、ゆっくりした旋律に単一リズム伴奏→中庸の速さの旋律+2パターンのリズム伴奏→速い旋律+2パターンのリズム伴奏→速い旋律+3パターンのリズム伴奏といった順に展開していきます。たいがい3/8、3/4拍子。

アフワーシュ
オート・アトラス中部〜西部にかけてとアンチ・アトラス(スース)地方のタシュルヒッツ方言を話すシュルハ族の音楽と舞踊スタイル。(アヒッドゥースと同類)笛やアルン(ベンディール)、「ガンガ」と呼ばれる2本のスティックで叩く大型タンブリンが歌の伴奏をするのが主。
基本的に2/4拍子のリズムで全音階のメロディーにのせた男声と女声の応答歌唱。

アフワーシュは伝統的な規則に基づいた「パフォーマンス」。屋外でありながら外部からは一切遮られた南部独特の要塞(カスバ)内で行われたのが一般的。(現在はその限りではありません)
銀のアクセサリーと赤ベースの華麗な衣装をまとった女性が円形になり(男性が入ることもあり)、輪の中心には楽師が陣取ります。アッヒドゥースに比べると衣装もより色彩感があり、非常に女性的で華やか。

 


シェイハート
モワイアン・アトラス、ケニフラ近郊の土地の民族歌舞やリズムを取り入れ、都市を中心に栄えた「シェイハート」というスタイルがあります。
現在はほとんどが庶民の結婚式で電子楽器をを伴い演奏されますが、もとは遊牧民の独身の若者が孤独なテント内で切ない思いを歌うことからはじまり、常にシェイハートの歌詞は「恋愛」がテーマとなっています。
たいていカマンジャ(アルト・バイオリン)やリュートとベンディールの伴奏ですが、歌そのものはアッヒドゥースの導入の「Izlan」に非常によく似ているそうです。

ケニフラから数キロ離れた小さな村で生まれたCherifaが歌うのもこのスタイル。大自然で培った歌声で16歳から地元の結婚式やお祭りで活躍をしていたとか。
それから、モロッコ歌謡界で最も有名なアトラスのライオンとも言われる歌姫Najat Aatabouが歌うのもシェイハートに近代エジプト音楽をブレンドさせたもの。
モロッコ独特のアトラスっぽさを思わせるカマンジャのメロディとベンディールのリズムに壮大でなおかつ調子のよいオーケストラが加わり、パンチが効いた聞き栄えのある音。Najat Aatabouのカセットテープはアラブ世界だけでも何百万コピーも出回っている驚異的存在。

Najat Atabou

 

Cherifa


ルワイス
シュルハ族の語り部で、この音楽マスターのことを「ライース」と呼びます。
マラケシュのジャマエルフナ広場でもよく見かけるグループですが、南部のスース地域に行くと必ずバス、グランタクシー、お店で流れているのがこの手の音楽。1弦楽器リバーブや3弦楽器ロタール(「アムザ」とも呼ばれます)でペンタトニック(5音音階)の独特な伴奏に自作のベルベル語で弾き歌いする吟遊詩人のグループです。

ナクースという指先につける鉄製のカスタネットやベンディールを伴奏に、メインボーカルとコーラスのコール&レポンス形式によるものが主です。
シェイハート同様に近年はアフワーシュの要素を取り込りこみ商業化した音楽もたくさん出回っています。
シュルハ族の音楽が、タマゼクト族よりも垢抜けて聞こえるのも、このペンタトニックの旋律のせいで、アクの濃さが全くない開放的な音楽です。

 


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