モロッコの食事といえばタジン。
それしかないのかというくらいタジン、タジンが続くけれども、それでも毎日少しずつ違うのだから、さすがに本場。主婦の知恵にも頭が下がります。
そんないつもと変わらないお昼の出来事でした。
「いや〜、いつもながらおいしいなぁ。でも、モロッコ人はいつもタジンばっかりであきないの?」
するとおばさんが答えました。
「そうね。でもタジンもいろいろあるからね。そういえばあなた、ウサギのタジン、食べた事、ある?」
「へえ!モロッコ人はウサギも食べるんだ!」
日本では「あんまり食べない」事、ウサギは主にペットであることをだらだらと説明する一方、昔はウサギを食べたいばかりに「1羽、2羽」なんていうふうに数えたんだ、なんていうことも話してお昼のひとときを小さな文化交流で楽しみました。
モロッコではウサギを食べると知った私はさっそくカフェで友達に質問攻撃です。
「ねえ、ウサギってほんとにおいしいの?」
そりゃ〜うまいさ! とそろって答えるモロッコ人。
買って来てくれたら、今晩にでも作ってあげるよ、とおおはりきり。
「いや、私はウサギ食べるなんて、って思っただけだって」とあせって釈明。いくらうまい、うまい、といわれても、焼き鳥屋で、雀を食べる気にならなかったのと同じように、どうしても乗り気にはなれない。
ウサギというのはあの校庭のすみで穴を掘って暮す生き物で、食べる物ではないんだぞ、と、いくらウサギだって食べ物なんだとわかっていても、なんとなく思い出と理性が拒否してしまうのでした。
食わず嫌いと言われても、やはりあれは食べられない。
「そう?でもおいしいよ。食べてごらんよ!」
そういう皆に、やだよ〜、ウサギなんてっ!とついだだっ子のようなオーバーアクションで拒否する私。
日本ではウサギはあんまり食べないとか、かわいいからかわいそうだとか、思い付くかぎりの理由を並べても、モロッコ人連合は「うまいよ、なぁ」ととりつくしまもありません。
その日はそんなふうに過ぎていきました。
翌日。
いつものようにステイ先の食卓を囲む私。
ビスミッラー、の言葉とともに、食事がスタート。
にんじんとたまねぎの、さっぱり味のタジンは、今日もほどよい塩味で、つい食もすすんでしまいます。
「いや〜、今日のタジンはおいしい!塩加減がちょうどいいし、お肉もおいしいね!」
「それはよかった!」と、にこにこ笑顔のおばさんが、食べなさい食べなさいと、次から次へと私の所にここが食べやすいよと、もも肉と思われるところを積み重ねていきます。
一つ食べ、二つ食べ。家族はそろそろごちそうさま。
私はいじきたなくもまだ料理の前。
積み上げられた三つ目に手を出してふと思ったのでした。
あれ・・・・? このにわとり、なんで足が3本も??
おや・・・・? そういえばこのにわとり、なんでこんなに頭が大きいの??
その瞬間、口からも同じセリフが流れました。
「このにわとり、足が3本あるんだけど?....!!」
流れる冷や汗。 微笑むおばさん。
「もしかして、...ウサギ?」
おばさんよりも早く、私が手にした小さな頭の先についた2本の歯が私に答えを告げるのでした。
「ウサギの肉は鶏の肉に似ていてさっぱりしてるし、おいしいのよ。ね?」
そういえば、なんで肋骨があるんだ?と思ったし、なんとなくいつものにわとりと骨格が違うと思ったんだよな...と思ってもあとの祭り。
私はついきのう、そんなもん食べたくないと力説していたそのウサギちゃんを、うまいうまいと連発しながらすっかりきれいにたいらげてしまったのですから。
まったく食わずぎらいとはこういうことだよ、と思ってみたり、でも食べたくないと思うのももっともだ、などと思いながらカフェに行くと、
「やあ!今日は君のためにこれを買っておいたよ!」
と、段ボールの中にパンダもようのうさぎを入れて、友達が満面の笑顔で待っているではありませんか。
その日の夕方、すっかりへこんだお腹をさすりながら、そのうさぎさんが食べ物となっていく姿を最初から最後まで眺めた時、「うわ〜」とか言いながら、密かにうまそうだ、と思ってしまったというのは、やっぱりだまっていた方がいいかもしれませんね。
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