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モロッコの通貨単位は現在ディラハムですが(DHと記します)過去モロッコではレアルという単位が使われていました。
大きな街を駆け抜けてゆく旅人の暮らしではほとんど出会うことはなくなりつつありますが、日常の生活ではまだまだ健在。
一般の商店やスーク等では、モロッコ人にはレアル、外国人にはディラハムで金額を言う所もあるくらい、この通貨単位はモロッコ人の暮しの中にはまだしっかり生きているのです。
名前が違うというだけならそんなに問題はないこの二つの単位なのですが、面倒なのが1DH=20レアルという計算になっているところ。
ディラハムの値段を20倍すればレアルになるし、レアルを20で割ればディラハムになる。ただそれだけのことなのですが、それが買い物という日常生活の一部となると、とてもめんどうな事になるのです。
例えば野菜一つ買うにしても、おじさんが1キロ200レアルだよ、というのを「え〜、そんな〜!あれとこれも買うから160くらいにしてよ〜」なんていう計算でさえ、頭の中は「えーと、200レアルは10DHでしょ、8DHにしてもらうにはえーと、160か」というぐあいに、二つの通貨をいったりきたり。
計算的には簡単なことですが、そのとき口にしているのは当然アラビア語なわけなので、頭ではさらに「え〜と、アラビア語で200はなんだったけか?160ってどう言えばいいんだ?」なんてやってるわけですから、日本の八百屋さんとのやりとりのように、ぽんぽんぽんと、リズミカルな言葉のやりとりにはどうしてもならない。
そこで値段交渉のタイミングを失ってしまうことがどれだけ多いことか。
また田舎のスークでおばあちゃん手作りのベールを買おうとした時のこと。
おばあちゃんは、「買っていってよ!これがたったの100!」と商品と5本の指をひらひら。
ちょうどそんなのが欲しいと思っていたし、そのおばあちゃんの威勢がとてもよくて素敵だったのでそのまま買うことにしたんですが、実はその時も、それが50ディラハムであるということを理解するのにはかなり時間がかかりました。
まず、おばあちゃんの手は5本の指をたてて、つん、つん、つん、ほれ、5本だけ!!とボディーランゲージで「5」の数字をアピールしているけれど、口では100だ、100だ、というのです。
おかしいな、レアルだとしても、これが5DHだなんてことはないはずだし、どんなに100÷20の計算をくり返しても答えは5。ほんの一瞬、レアルって本当に20倍でよかったんだっけ?とよぎる不安。
けれど、日本でも、これだけでいいよ、と3本指をたてて3000円だったりとかいうことがある。
思いきって、それって『50DH』っていうこと?と聞くと、おばあさんは
「そうそう!『1000レアル』!」
...いったいどんな計算機が彼等の頭には備わっているんだろう?
なんともややっこしい話しです。
大学までの高等教育を受けながら、20のかけ算、わり算にとまどいを覚える私と、いとも簡単に二つの通貨を行き来する村育ちのおばあさん。自分の受けた教育って一体なんだったんだろう、と笑いが込み上げてきてしまいました。
割算の苦手な大卒の女には、モロッコの田舎で、アラビア語で計算しつつ、おばあさんのその「5」の数字のアピールが、まるで秋葉原の露店商のような「それがたったのこれだけっ!」と同じパフォーマンスなんだと瞬時に思いつく余裕はなかったわけなのでした。
ディラハムとレアル。
20のかけ算とわり算。
ディラハムでの交渉はだいぶいたについてきた私ですが、田舎のスークについたとたん、値段交渉にえ〜と、え〜と、と妙な間をあけては交渉のタイミングを逃し続けているのでした。 みなさんも、田舎での買い物や、小さな商店での買い物で、どうも金額がおかしくないか?と思ったら、これを思い出してみてください。
金額をあんまりふっかけてくる土産屋に、それってもちろんレアルでしょ?なんて言ってみても有効かもしれません(笑)
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