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モロッコの絨毯は、ラバトで作られる、Tapis Royalというタイプのものを除いて、その全てが、モロッコ各地の小さな村々で昔からの技術を受け継いで作られている土着の美術作品です。
そもそも絨毯はモロッコ人の日常の生活の中で、寒さをしのいだり、荷物をまとめたりするために作られ、使われてきたもので、販売用や観賞用として作られたものではありませんでした。
田舎では、都会のようにそれを最初からお金を稼ぐために作るのではなく、お祭りや結婚式、割礼の儀式など、特別な日のために、作ってくれないかと頼まれてから初めて作られるような特別なものとして存在していたようです。
昔のモロッコは、今よりもずっと人口がまばら。
となりの家までは、時間をかけなければ行かれなくてあたりまえであったし、田舎の生活では家の仕事だけで1日がいっぱいな事も多いので、主な織手であった女性たちは、絨毯を作るためにということで集まって仕事をしたりすることがなかなかできませんでした。
けれどもそのおかげで、お互いの作品同士が似ることもなく、それが結果としてモロッコにたくさんの種類の絨毯を産むことになったと言われています。
現在ではほとんど見られなくなりつつありますが、かつてはその絨毯の中に、作者のしるしや、出身地などをあらわす模様が織り込まれていたそうです。
家や、村の社会の中でだけ暮らしてきた女性達。
小さな社会ですから、人間関係も単純、というわけにはいきません。にこにこしているだけではいられないこともきっとたくさんあったでしょう。
けれどそこで彼女達は、その日起きた出来事や、自分のまわりの問題の数々を、どなりちらしたり怒ったりするかわりに、絨毯という布の上に刻んできたのです。
そんな、言ってみれば日記のような作業に難しい知識はいりません。
ですからその作業は途絶えることなく、村の女達によって受け継がれることが可能だったというわけです。
現在では、人口が増え、交通網も整備されることによって、絨毯作りの作業は1〜4人、時には6人などと人数も増え、収入をそれによって得ようとする村人の団体などもあり、絨毯作りの作業の背景も変わりつつありますが、そんな中で今も、家族のために作られる絨毯は別格としてきちんと存在しています。
そういった家庭内で作られる絨毯は、仕上がりとしての善し悪しは別に、家族の作品としての味わいというものがありますから、それは特別な絨毯で値段をつける事などできません。
けれども、実際問題絨毯作りにもセンスの善し悪しはあります。
ですから、 家族のために作られた秘蔵の絨毯がいつでも美的に美しいわけではなく、大きな絨毯屋で扱われている絨毯などは、やはり店主によって選ばれた作品であるので、鑑賞にも十分耐える、美しい作品が多いこともまた事実です。
田舎や産地のスークで生産者によって直接売られているものは、お土産屋や絨毯屋で買うものよりもかなり安いものが多いのも事実ですが、そういった所で、鑑賞に十分耐える作品を見つけるのもまた大変な事であるというのを覚えておくといいかもしれません。
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