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モロッコ人も日本人も、実は肝心な事はなかなか「恥ずかしくて言い出せない」人々です。
アラブ社会にはそれがない国もあるのですが、モロッコには「恥」という言葉が存在しているだけあって、日常の生活のありかたは、日本と似ているところがよくあります。
そんな「日本とよく似ている」社会の中で、ツーリスト対現地モロッコ人、あるいは在住日本人の間で問題になる事もあるのが、他人の親切にまるまるのっかってしまうケース。
モロッコ人も日本人も、目の前に客人があらわれてしまってから、「○○は困る」「○○はできない」…といったような類いの事を言い出すことはできない人種なので、出発前に管理人が恥をしのんで(!)皆さんに現実をお話してしまいましょう。
さて、日本人ツーリスト(特にバックパッカー)の傾向としては、お世話になるときは「旅先の親切はタダ」とばかりに本当になにから何までまるまるお世話になってしまう、というケースが多くなっています。
ただ、よく考えてみていただきたいのです。
旅行でモロッコにいらっしゃる皆さんにとってはあくまでもモロッコでの日々は「休暇」であり、非日常ですが、こちらにいるモロッコ人や日本人にとっては、平日は平日、休日は休日で、学校があったり仕事があったり、家族での予定があったりするわけなのです。
自分が休暇で来ているという事と、モロッコ人が日常の忙しさを感じさせないゆったりペースでいるのでついつい忘れてしまうのですが、日常の中に飛び込んで来た非日常な存在は、端から端まで口で言うように「welcome」な事ばかりではありません。
日本にいても、友人が来る、といっては家の掃除をしたり飲み物を買って来たり、昼食や夕食をどうしようかと悩みませんか?
人が来る、ということはどこの国でも同じ事で、どんなに口では「welcome」なのだと言っていても、もてなす側にとってはそれは大変な日常の1大イベントであることを忘れてはいけません。
特にモロッコ人にとっては客人をもてなすことはとても大切な事とされているので、誰がいつやってきても、イヤな顔ひとつすることはありません。
けれども、突然やってきた人を喜ばせるために、ジュースを買いに行ったり、いつもよりちょっと贅沢な食事を用意したり、例えば道が不慣れだろうから、後でそこまで送るよ、と一緒にタクシーに乗って出かけたり、マイカーを運転してくれたり…。
日本人の気分としては、お邪魔したお宅で受けるサービスは「なんて親切な人たちだったんだろうね」と、あくまで「タダの親切は良い旅の思い出」、とばかりに親切にのっかってしまう方が本当に多いのですが、いくらお互い楽しいひとときをもって良い思い出を作ったのだとしても、大金持ちならともかく、薄給のモロッコ人にとって、そのおもてなしが負担でないわけがないのです。
また、現地の日本人にとっても、過去に面識がなく、たまたま出会った人同士はもちろん、仮に親戚であったり友達であったりしたりでもすればなおさら、皆さんはお感じにならないであろうところで、とてもいろいろ気配りするなど、とにかく「来客」というのは誰にとっても日常とは異なる非日常のイベントで、それなりの苦労がともなうものに他なりません。
例えばモロッコ人の家庭では、コーラやファンタなどの飲み物は、日常では来客でもなければ出しません。
水でさえ、モロッコ人は水道水。お客様にはできるだけミネラルウォーター。
お茶にはお菓子も添えなくちゃとか、食事はせっかくだからと手間のかかった料理を出してくれたり…。
どこで待ち合わせしましょう、どこまでお送りしましょうといったって、移動するにはタクシー代がかかったり、ガソリン代がかかったりするものです。
(かといってそういったものを遠慮するのは相手にお金がない、もてなすだけの余裕がないと指摘しているようなことになってしまうので失礼にあたるので、管理人はできるだけチープなものを「それが好きなの」といってごまかしている日々です)
もちろん、だからといってその事にお金を払う必要がある、というのではもちろんありません。
その事に感謝しろ、というわけでもありません。
ただ、実際問題として、親切を受けることを当たり前だと思っている方が特に日本人にはとても多いのが、何より残念に思えて仕方がないのです。
「お忙しいでしょう?」と言われて「はい、忙しいので無理ですね」とは日本人なら答えません。
「お邪魔にならないかしら?」と言われて「やっぱりちょっと邪魔ですね」とは、モロッコ人だって答えません。欧米人のようにストレートに「○○はだめ」と否定的な答えをお互い言い出せない人種だからこそ、お互いもっと気を使えないだろうかと思うのです。
例えば親切に街を案内してくれた学生君や、暖かく迎えてくれたモロッコ人家庭。そういった方々には、「案内してくれているのだから」「いろいろご迷惑をおかけしているだろうから」といった、日本人でもごく普通にもつ気持ちをもって、例えば当然交通費であるとか、一緒に行動している間の食費等は、最低限相手をさえぎってでも我々旅人の方で負担するのが筋合いというものでしょう。
(もっとも中には無理矢理くっついていって自分も旅をしてしまえ、という輩もいないわけではありませんが)
また、お友達の家にお邪魔するのであれば、日本でだって手ぶらででかけたりしませんよね。
「まぁ〜、そんなにお気遣いいただかなくてもよろしかったのに」なんて言われながらも、来客が手みやげを持って来るのは日本人にとっても当たり前の事ではありませんか?
モロッコでも日本人のこの習慣は喜ばれ、とても丁寧な人だと思われこそすれ、批判の対象になるような事では全くありません。
相手がモロッコ在住の日本人にしてみても同じ事です。
こちらで生活している日本人は、よほど駐在さんでもない限り基本的に薄給で暮らしていますから、お金のやりとりを一切せずに「友達だから」「親戚だから」という事でなんでもサービスできるわけではありません。
「あそこに行ったら面白いだろうなと思うけれども自力では行けないだろうし、自分がついていくとなったら、自分の分の食費や滞在費も自分が払う事になるだろうし。かといってこちらから私の分を払ってくれなんてお願いできないし…」といったように考える事もあるので、結局、「触らぬ話題に面倒なし」というわけで、面白い事は何もこちらから提案できないことも少なくありません。
旅人といっしょにいると、自分の日常としては行かなくてもいいところ、食べなくても良いところでの食事に連れ回されても(おもてなしとしてご案内しても)、その分の会計は当然のように割り勘にされてしまったりするので、海外からのお客様の来訪は、久々の再開についてはうれしくもありながら、日常のペースが乱れたり、不要な出費が増える点において「少し迷惑でもある」という事をどのように伝えるべきなのか、何度経験しても悩んでしまうポイントであったりもするのです。
ここではこんなふうに解説させていただいている管理人もやはり日本人ですから、いざ誰かにモロッコで出会ったとしても、きっと「いえいえ、どうぞお気になさらずに」と、誰かの存在がまったく迷惑ではないかのように話をするでしょう。
けれども相手がモロッコ人であれ、日本人であれ、食費や交通費程度は、仮にこちらが何のサインを送らなくても、自分から進んで「お世話になっているのはこちらですから払わせて下さいね」と一言申し出ていただけると、その申し出を受けるにしろ受けないにしろ、きっと誰もが「恐縮です」と微妙な表情になりながらも喜んでくれるでしょう。
案内する側にとってもやはり人間ですから、自分の事を思いやってくれている事を示すその一言を聞くだけで、やる気は大分違ってくるものなのです。
この文章を読んで下さった方の中には、そういうのはちょっと親切やおもてなしとは違うと思うと思われる方、あるいはそういった事は面倒だと思われる方がおられるかと思いますが、そういった方々は、最初からプロとして国を案内したり、お客様をいろいろなところにお連れしたりすることを仕事にしている旅行業者やガイドの知識を頼った方が、お互いに気持ちの良いひと時を過ごせるかもしれません。
自分も相手も、言ってみれば金銭的にすっきりしている分、安心して自分がしたいと思っている事を伝え、正当な報酬のもとに、できることとできないことをきっちりと線引きしてくれることでしょうから。
他人の親切を、自分の思い出を彩るために利用するのはやめましょう。
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