旅の情報編09:笑えない話(笑)
「ありがとう」感謝の気持ちは5DH?! 悪夢の食中毒


 
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夕闇のひったくり


初めて訪れたモロッコは、ちょうどラマダン中。
到着して間もなく、気分を悪くして部屋で休むといった友達を置き去りにして、私はイスラム世界に興味を持ってはじめて訪ねるイスラムの国で、流れるアザーンを背に、かなりのうきうき気分でフナ広場をめざしてあるいていました。

広場が近づくにつれて賑わいを増す通りに、ああイスラムの国にやってきたんだなあと感慨もひとしお。そんな私の鼻先をかすめる屋台の煙のいいにおい。「さーて、何食べようか」とカバンをあさると、なんとさいふが、ない。

そう。間抜けな私はお財布を部屋に置いてきてしまったのです。
これも友達を置き去りにした罰か、今日はもうおとなしく寝ようと決めて、今来た道をひきかえすちょっぴり情けない私。
まあ、到着そうそうすられるよりましだよな、などと自分に適当ないいわけをならべつつしばらく行くと、来たときには特に気にもかけなかったバス停が50mほど前方にあったのです。

しかし、そんな間抜けな私にも、なぜかその時、夕闇に黒く染まったその人影の中にうまくまぎれ込んだつもりの、「ひったくり」の姿が見抜けてしまったのでした。
動物はやはり危険を察知する能力を自然と持っているものなのでしょうか。
おそらく私がすごいカンを持った女なのではなくて、その男がまぬけすぎたというだけだという説が最も有力ではありますが、いまでもどうしてそれとわかったのか不思議です。

マヌケな犯罪者

「ひったくりなんかしてやろうと企んでいる犯罪人のくせに、50m手前からそれとわかってしまうなんて、なんてまぬけな男だろう。商売あがったりだなこいつは」
と、襲われる恐怖より、その男の間抜け具合に急に笑いがこみあげてきてしまいました。

夕暮れの街。
間抜けな泥棒。
財布を忘れた未来の被害者。
マンガじゃないんだから、やめようよ...

そんなふうに思いながら男の前を足早に通り過ぎると、思った通り、その間抜けなひったくりはあとをつけてくるではありませんか。
なんだかMr.BEANにでも出てきそうな展開に、私はおかしくてしかたなかったのですが、いつアタックされてもいいように、鞄をわざとらしくしっかり持ち直し、肩紐に手をかけ、持ち手までしっかりと握りました。
(それでは中身が貴重だとアピールしているようなもんだとモロッコ人には御指摘頂いております...)

本当はそれで気がついて諦めてくれればいいと思ってやったわけなのですが、マラケシュのまぬけ男はそう簡単に諦めず、小走りになったり、ゆっくり歩いたりまた走ったりと繰り返すことで、懸命に気がついていることをアピールする私に、しっかり同じペースでついてくるのです。
おいおい、いくらなんでも歩いたり走ったりまで一緒にするのだけはやめてくれ。
ほんとにマンガじゃないんだから!

このドロボウ、そんな相手から一体どうやってひったくるつもりだろうと思っていると、通りの向こうには併走する赤い一台のバイク。そうか、あれで逃げるつもりなのか!

そこまできてようやくちょっぴりまずい展開なのかも、と少々緊張しつつも、あいかわらずトムとジェリーのようなおいかけっこが続きます。
そうこうするうちに、目の前に、大きな交差点が現れたのです。

「くる!あそこでヤツはしかけてくる!」
信号で立ち止まる二人。他に幾人か立ち止まっているのに、それでもおまえは仕掛けるのか?そう思ったその瞬間、信号が赤から青に変わり、男の手が私の鞄にかかる!

ぼすっ

...と皮の鞄が音をたてたものの、それは私の肩から離れることはなく、勢い余った男はそのままふらりと車道へ。私があきれて見ていると、男が振り向こうとするではありませんか!
もう一度来るか?!と身構える私をゆっくり振りかえった彼は、なんと手を広げ肩をすくめると、「しかたないね」といった具合にニヤリと笑い、歩くとも走るともなく、夕闇の街にだまって消えていったのでした。

予期せぬ展開に、どう反応していいものやらそのまま固まる私と、背景の赤い街。
はてしなく劇画めいていたこの出来事に、私もすっかりマンガの一コマ気分。
あごでもはずれてあんぐりなっている姿など思い浮かべては、ひとり再び情けなくなるのでありました。

まったくなんて日だ!せっかくわかってるってアピールしてあげてたのに!
そのマの抜けた男に腹を立てていると、いつのまにか私の横に1台のバイクがやってきていました。
見覚えのある赤い色。
ん?なんださっきの男の相棒じゃないか! しまった!!!

と、思ったら、バイクの男はこうのたまったのです...。
「ヘイかのじょぉー、どこのホテル?危ないからおくってってやるよ!」
...お前の方が100倍危ないんだっちゅうの。

 
 

そしてそのとき。

ところがこの時、私自身は全く別の衝撃に震えていたのでした。
当時まだ学生で、一体自分は何を仕事にするべきかと悩み、デザインなんていう虚飾に満ちた世界に生きる事は、はたして本当に私が求める道なのだろうかと、それはシリアスに考えていた時期でした。

そこに現れたこのドロボウ。
私なんか何の役にも立ちはしないさ、生きているだけ資源のムダ使いだ、とまで思い込んでいたのに、ヤツときたらドロボウのくせに笑っている!

何よりも衝撃だったのはその事だったのです。
ドロボウのくせに笑っている。
ドロボウのくせに笑って生きている。

私はまだ何の職業も持っていないけれども、何を選ぶ事にしても、きっとドロボウよりもマシだろう。そうだとしたら、その私が笑顔で生きないでどうする!

そう思った時、私は思ったのです。
私はお日様を向いて生きていていいんだ。必要以上に卑下する必要もない。この世界は、ドロボウにさえ笑顔で生きるチャンスを与えているのだから、私が私に与えられたなにがしかの力を使って生きる事が否定されるはずはない!

当たり前の事ではありますが、この時ほど、私は自分が生きる事を世界から肯定されたと思った事はありませんでした。
自分の存在をつかみ直し、この世界に生きる事を自ら選び直したという意味で、私はこの時、生まれ直したのだとまで感じていたのでした。

私にそこまでの衝撃を与えたのがドロボウなら、私のつまらない一生も、きっとどこかで誰かの役に、ほんの少しくらい役に立つに違いない。
そんな事に気がつかせてくれたのは、「モロッコ」の夕闇に現れた「ドロボウ」でした。

だから今でも、モロッコにあきれる事も、嫌いになる事もありません。恩返しをしなくてはならないくらい感謝しているのは、私の方なのでね。

 
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